ネットに事実無根な投稿…広がる風評被害

実際に働いている社員の生の声を見ることができる会社の「口コミサイト」。
転職を検討する際、社員や元社員が書いた会社への評価をチェックして参考にする人も多いだろう。
しかし、そこに事実無根の書き込みをされた場合、投稿の削除に至るまで企業側には多大な費用と時間がかかる。
なおかつ、それだけの労力をかけてもなお投稿者の特定ができないことすらある。


「特に中小企業は、企業イメージが大きく損なわれ、転職希望者の減少につながってしまう。死活問題だ」。

こう語るのは転職サイト「転職会議」に名誉を毀損する口コミを書かれた印刷会社(東京都中央区)の社員。
裁判により投稿削除が認められたものの、投稿者の特定に2年3カ月以上要した。
「こうした現状に一石を投じたい」と取材に応じた。(編集部・出口絢)


●今回の経緯
同社によると、事案の概要は以下の通り。

(1)投稿の発見
2016年3月、社内関係者が「転職会議」にある同社のページで以下のような投稿を偶然発見した。

「(会社の)将来性は無いに等しいでしょう」「長く務めたければ、社長とNO2の2人にはイエスマンでいることです」「この2人に意見など言えば、間違いなくクビになります(過去何人も退職に追い込まれています)」「平均勤続年数は3年未満というところです」ーー。

これらの投稿は2012年4月、「元社員」だという男性によって書き込まれていた。

(2)「転職会議」に投稿の削除要請

すぐさま担当者が削除要請ホームから「転職会議」を運営するリブセンス(東京都品川区)に削除を要求、さらに弁護士を通じて削除を求める内容証明郵便を送付。
リブセンス側からは「サイトの手続き方法を案内する」との回答がFAXにて届けられ、直ぐに抗議文書を出したところ、約2週間後にFAXで「これから発信者情報開示請求について審査する」と連絡があったものの、投稿は削除されなかった。


(3)投稿削除や投稿者情報の開示を求め「転職会議」を提訴
これを受けて同社は2016年5月、社会的評価を下げられたとして、「リブセンス」に対する投稿削除や投稿者情報の開示を求める提訴を起こした。
東京地裁判決(2017年4月26日)からは「(将来性がないとの摘示は)原告会社の名誉、信用を毀損することは明らかである」「平均在職年数は3年10カ月程度だが、勤続年数が5年以上の社員も相当数在する」「社長が自分に反抗的な態度を示す従業員を直ちに解雇するような傍若無人な人物で在る旨を意味するもので、社長の名誉、信用をそれぞれ毀損することは明らか」などとして、投稿の削除とメールアドレス開示が命じられた

(4)プロパイダに投稿者情報の開示要請
こうして開示されたメールアドレスから、書き込みをした人が契約しているインターネットサービスプロバイダ(プロバイダ)が判明、投稿者を特定しするに至った。
場合によっては損害賠償請求を検討する可能性もあるため、弁護士会照会手続を利用して「プロバイダ責任制限法」4条1項に基づき、発信者情報の任意開示を求めたが、プロバイダ側は開示に応じなかった。


(5)投稿者情報の開示を求めプロパイダを提訴
2016年9月、同社は発信者情報の開示を要求し、プロパイダを提訴した。
東京地裁判決(2018年4月24日)は、「リブセンスが開示したメールアドレスの契約者は、記事を投稿した者と認定することができる」などとして、契約者の名前と住所の開示を命じた。
長い過程を経て、やっとのこと相手の情報が出たものの、住所と姓は元社員のものと一致したが、下の名前は一致しなかった。
さらにその元社員は、ずいぶん前に転居済で、住民票も取得できなかったため、人物のいどころを特定するまで、プロバイダ提訴から約1年9カ月がかかったという。


●現状は「書き込んだもの勝ち」
今回の裁判では、投稿の発見から現在まで2年3カ月以上が経過している。
印刷会社の代理人である浅見雄輔弁護士は「被害の回復までに時間と費用がかかりすぎるのが大きな問題だ」と話す。

「根拠のない嘘が書かれた時に、誰が書き込んだか特定するために裁判を何度もしなければいけない。これでは多くの会社や個人は泣き寝入りで終わってしまう。今の法律はあまりにも権利侵害された側に優しくない」

加えて、特に中小企業にとって口コミサイトの口コミは採用において死活問題だという。

「匿名だからこそ、軽い気持ちで嘘を書いてしまうのではないか。企業イメージが大きく損なわれかねない。書きこんだもの勝ちという現状は、おかしいと考えます」

今回誹謗中傷を書き込まれた会社の担当者は「権利が侵害されているという申し出があった際には、真摯に迅速に対応してほしい。裁判手続がなくても削除・開示要求に応じる合理的な仕組みを作ってもらいたい」と話している。


●転職会議「削除依頼数・削除数は減少傾向」
転職会議はHP上で、「批判的な投稿であっても、転職の判断において非常に重要な情報であると考えている」としながら「批判と誹謗中傷の区別は判断が難しい」と述べ、削除されない投稿の書き方を明確に表すことにした。
特定の個人に対して、外見的な容姿や内面的な能力に関する感情的な表現、定義が曖昧な悪意ある表現を削除対象としている。

「転職会議」を運営するリブセンスは、企業側からのクチコミ削除依頼の判断基準について、「プロバイダ責任制限法に則り、対応を行っております。なお、個別具体的な判断基準は開示しておりません」と説明。
また、企業側からのクチコミ削除依頼、その依頼に基づいて削除されたクチコミ件数については「件数は開示しておりません。削除依頼数・削除数共に、減少傾向です」と話した。



〜筆者の感想〜
今回の記事は、被害にあったと主張する企業側に見方が集中している。
実際に、裁判において投稿の削除やプロバイダ側への情報開示要求が通っているものの、そもそも投稿内容が嘘なのかどうかという論点が、この文中では述べられていない。
もちろん、「元社員」がいない裁判の過程では、それも論じられていないだろう。
この一連の騒動を経て、リブセンス側が決めた投稿への対応方法も非常に曖昧だ。
転職会議などの口コミサイトは就職希望者にとって就職を決める重要な判断ツールの一つとなっている。
そのような判断材料が、曖昧な理由でサイト上から削除されるのは、求職者にとってはデメリットのように思わずにはいられない。